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books: Alf Laylah wa Laylah

Diary6 min read

岩波マルドリュス版を読了した

一ヶ月半くらいかけて全 13 巻を読了した.

今年はなんとなくいままで挑戦してこなかった大長編にとりかかるみたいなところを目標としていて,その第一弾(というわりにもう今年も終わりに向かいつつあるのですが)として取り組んでいたものとなります.
これとあわせて日本語訳クルアーンやイスラム文化の解説・紹介書を読んでいたが,なかなか理解がはかどりました.
たとえば,わりと頻繁に異教徒であるユダヤ人の医者みたいなキャラクターが登場するのですが,イスラームってあんなけキリスト教世界と戦ったのだし?? と不思議に思いきや,意外と共存して暮らしていたりする.
そのへんの感覚が面白かったです.

よく知られた「アリババと 40 人の盗賊」や「シンドバードの冒険」「アラジンと魔法のランプ」はけっこう後半の登場で,このあたりになるともともとの原典にはなくあとから追加されたものである由.
シンドバードやアラジンは後世の絵本やアニメで知る内容とは違いがあって面白い.

ほかにいくつか面白かったものを挙げておく.

商人と鬼神との物語(1 巻 1-3 夜)

最初の話ですでに千一夜物語の特徴とも言える物語の入れ子が登場する.
大枠の物語である,シャハラザードがシャハリヤール王に夜ごとに語る物語の中に,登場人物が別の物語を始める,またはさらにその中で出てくる人物が別個の物語を始めるといった複雑な構成がすでに第一の物語から登場するほか,鬼神や人をカモシカや驢馬に変える魔法といった後続の物語でも頻出する不思議が顔を出す.

オマル・アル・ネマーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの物語(3-4 巻 44-145 夜)

千一夜物語中最長の軍記物.
キリスト教圏との歴代にわたる戦いを描く.偽りの神を奉じるキリスト教異教徒の描き方が面白い.
物語がところどころ入れ子構造になっているなど千一夜物語っぽさはあるが,軍記物の性格も濃く,最長編ながらあまりらしくない部類に入るかと思う.

鳥獣佳話(4 巻 146-151 夜)

最長編が終わったあとにいくつかのイソップ童話を思わせる鳥獣が主役の短話集.

「博学のタワッドド」の物語(5 巻 270-287 夜)

身を持ち崩したダメ息子に仕える博学の女奴隷が主人のために国で一番の学者連中と知恵比べをする.
当時の一級の知識がどういったものであったかが伺い知れる興味深い一篇.

黒檀の馬奇談(7 巻 414-432 夜)

空飛ぶ機械の馬をめぐる冒険譚.

帝王マハムードの二つの世界(10 巻 819-821 夜)

生に倦んでしまった帝王の前に現れたモロッコの魔術師が見せる人生のさまざまの可能性.
短いながらも教条的な内容で印象深い.

その他

全編を通じて登場する教王ハールン・アル・ラシードとそのお供のかかわる数々の長編・短編を含んだ物語も楽しい.
マルドリュス版では最後に大枠の物語も大団円を迎えるので,きちんと編集された大長編を楽しむことができる.
すべての物語が出来がいいかというとそんなことはなく,現代のぼくの視点からするとご都合主義すぎたり,あるいは単純に辻褄があわないなと思うところがあったりするが,概ねよろしかった.思ったより似たような物語は少ない.